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横浜家庭裁判所 昭和50年(少ハ)3号 決定

少年 S・J(昭三〇・二・一三生)

主文

少年を昭和五〇年五月二二日から七ヶ月間特別少年院に継続して収容する。

理由

1  申請の期間

昭和五〇年五月二二日から一四ヶ月間

2  申請の理由

(1)  本少年は、昭和四九年五月二二日、窃盗保護事件により横浜家庭裁判所において特別少年院送致の決定を受け、同月二五日に当院(久里浜少年院)に入院した。その後同年九月二級上に進級したが一一月頃「内痔核」による痛みを訴えたので、同年一一月二二日関東医療少年院に移送入院して手術を施した。前記手術後の経過は順調で翌昭和五〇年二月七日には治癒と診断されるに至つたが、その間の同年一月一日に少年は一級下に進級し、なお同年一月一〇日には少年院法一一条一項但書による収容継続決定(同年五月二一日迄)がなされた。同年二月二〇日少年は再び当院に移送され、中期生に編入となり、引続いて矯正教育を受けてきたものであるが、四月一六日における隣室の少年のトレーニングシャツ隠匿行為により、五月二日に二級上に降級となつた。

(2)  ところで、上記反則行為時においても認められたのであるが、本少年は未だ非行への反省が乏しく、嘘言を用いて表面を糊塗しようとする態度が見られるうえ、困難に遭遇したときに逃避的になりがちで自らの意志力で克服しようとする気力が不足している。又、怠惰なくせが残されていて、地道に働く態度が十分身についていないうらみがあり、社会性も未熟である。特に父に対する感情の処理が難しく、現実に父との共同生活が円滑にいくか否か問題があり、加えて、横浜市内にかなりの不良仲間もいるので、出院後の生活に不安もある。従つて、今後職場見学、重症身障児施設奉仕作業、自己洞察を深め、自覚を高める為の課題作文、治療的面接、批判集会などを通じて、本少年の上記問題点の改善、除去の指導をする必要がある。又父との関係調整や不良交遊の監督指導等の為に保護観察を付す必要もある。よつて、今後一級下、一級上への進級期間及び一級上進級後三ヶ月間の院内処遇、出院後六ヶ月程度の保護観察期間を含めると、結局期間満了の昭和五〇年五月二一日以後一四ヶ月間収容を継続する必要がある。

3  当裁判所の判断

当裁判所の調査、審判の結果によれば、上記申請の理由(1)の事実はすべてこれを認めることができる。ところで、一四ヶ月間という長期の収容継続が必要であるとする直接の理由は、その申請の理由中でも明らかなとおり、トレーニングシャツ隠匿行為による二級上への降級と、六ヶ月間という保護観察期間が必要であるという点にある。そこでまず降級の点から考える。本少年及び分類課長山田量一に対する調査結果及び教務課長平山正徳の供述並びに処分審査の記録、本少年の供述調書によれば、少年のシャツ隠匿行為とは、昭和五〇年四月一五日夜、洗濯の終つたトレーニングシャツのうち隣室の少年の分が誤つて少年の自室に配られた際、これに気づいた同室者のAからその旨知らされた本少年が、格別深い考えもなく自分が利用するからとその隠匿方をAに指示したところその直後からシャツの調査が始まり、本少年も幾度となく教官からシャツの行方を聞かれ、又提出方を勧告されたにもかかわらず自室にはないと言い張り、翌一六日までの間Aからのシャツは提出しようとの申出も見つかる筈はないからと押し止め、遂に自室羽目板内に隠したシャツが教官により発見されるまで自発的な申出をしなかつた。加えて、その後本少年は一応シャツ隠匿の事実は認めたものの、その罪の一部を同室者のAに転嫁する如き態度をとり、ようやく一〇日後に詳細な事実を供述するに至つた、というものであるが、これを原因とする降級に際しては、シャツ隠匿行為自体より、その後の過程における少年の嘘を押し通そうとする態度、見つからなければよいとする考え方、又発見後も言い逃れが多く、責任転嫁をはかろうとする態度などが重視され、これらは本少年の非行性にむすびつくものであり、その改善が不十分な証左であると判断されたことが窺われる。ところで、上記の如き少年の態度、考え方はもとより好ましいものではなく、しかも前回の初等少年院送致時から指摘されていた問題点でもあり、その改善を要することは言うまでもないが、しかし、これらの性行が直ちに本少年の非行性に結びつくかには疑問がある。本少年の上記の如き態度考え方は従来から一旦非行を発見されたあとに顕著に見られるのであつて(その点では本件に酷似している)、それは権威に対する反発や不信感に依ると共に少年が言うように「シャツは俺が着るといつてしまつたので、あとから出しにくくなつてしまつた」「僕の場合一度口に出してしまつた事は、その事が良くない事うその事でも意地を張り、最後まで言い通してしまう」という少年特有の心理に依るものと考えられるのであつて、これらの点から考えると、上記の如き態度、考え方が直ちに少年の非行性(実際の非行の大半は車への強い関心による自動車盗である)に結びつくとは考え難い(結びつくとしても、これらが直接非行を誘発していると認めることは難しい)。従つて降級という処分によつて少年に反省の機会を与えたことはやむを得ないにしても、他の生活、職業、体育補導面においては問題はなく努力の跡も見えるのであるから今後一級の下、一級の上への進級に関しては弾力的な運用をなすことも不相当とは思われない。

なお、従来全く冷え切つていた父親との関係も、父親が二回面接に来たり、今回の審判にも出席する予定であつたこと(但し親族の葬儀のため不出席)、少年の出院後は同一職場で働くことを決めていること、及び少年の帰宅に備えて、二部屋を借り増していること等の点から考えると、相当改善のきざしも見えるのであつて、そうだとすると、あまりに収容が長くなることがかえつてその改善への芽を摘むことにもなりかねない。以上の諸点を総合して考えると、結局満期である五月二一日から七ヶ月本少年の収容を継続するのが適当と考える。なお六ヶ月程度の保護観察は、これから七ヶ月間の矯正教育の父子関係の状況及び少年自身の非行性の改善の程度によつてその要否を定めるべきであつて、現在直ちに決めるべきことではなく、従つてその部分についてはこれを認めない。

よつて、少年院法一一条四項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 須藤繁)

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